「本物の恋がしたい」気持ちが止まらなくなる!秋の夜長にゆっくり見たい純愛映画2選
どうもこんにちは。福岡映画部の石渡麻美です。みなさん、映画観てますかー?
季節はすっかり秋ですね。涼しい夜風が気持ち良い季節、しっぽりと純愛映画はいかがでしょうか?
今回は、秋の夜長にしみ入る純愛映画2本をご紹介します。
1:名演技・オブ・ザ・リリー・フランキー&木村多江『ぐるりのこと。』
【参考】
※「ぐるりのこと。」/DVD発売中/発売:バップ/©2008『ぐるりのこと。』プロデューサーズ
〈あらすじ〉
1993年。どんなこともきちんとしたい妻の翔子と、ひょうひょうと生きる法廷画家の夫カナオは、子どもを授かった幸せをかみしめていた。どこにでもいるような普通の夫婦である彼らだったが、初めての子どもの死、妻のうつ、訪れるさまざまな困難に戸惑いながら、それでもふたりは一つずつ一緒に乗り越え生きていく。何があっても絶対に別れないふたりが過ごした10年の、希望と再生の物語。
〈石渡的注目ポイント〉
誰かを嫌いになりそうなとき、そんな自分を嫌いになりそうなとき、オススメしたいのがこの映画。知ってる限り、リリー・フランキー史上一番優しい一面が観られる映画です。
とある夫婦のぐるりのこと=身の回りのさまざまなできごとをテーマに、結婚から10年間の「病めるとき」や「健やかなるとき」を描いた本作。初めての子どもを授かった幸せな時間、その子どもを失った苦しみ。妻・翔子を演じた木村多江の壮絶な演技が観る者を圧倒します。
■涙と鼻水でぐちゃぐちゃになるシーン
中でも印象的なのが、物語後半に訪れる嵐の夜のワンシーン。壊れゆく妻の心がついに悲鳴をあげたとき、それまでただただいっしょに「おる」ことで日々を支えてきた夫が、静かに口を開きます。
「みんなに嫌われたっていいじゃん。好きな人に好きでおってもらえたらそっちのほうがいい」
「好きだから、好きだから一緒にいたいと思っとるよ。お前がおらんようになったら困るし、ちゃんとせんでもええけ一緒におってくれ」
4分48秒の長回しのシーン。リリー・フランキーの福岡弁が、木村多江と私の顔を涙と鼻水でぐっちゃぐちゃにしていきます。
普段、感情表現が少なく、何も考えていないように見えていた夫がシンプルな一言に込めた想いの深さが、真面目で人の心を考えすぎる妻の心をじんわり柔らかく解放していく名場面。
ぐちゃぐちゃな自分も惨めな自分もありのままをさらしても、それ全部を包み込む時間の積み重ねがある、そんな夫婦の絆は強くて尊い。
世界中が敵だらけのように思えても、たった一人でも自分を信じてくれるひとがいる、それだけで人は救われる。監督自身が心の病を乗り越えた経験をもとに作られた、優しく、とても真摯な作品です。
■マンネリを感じていてもそうでなくても、“夫婦の愛とは”を垣間見る至極の日本映画
夫婦の間に差し込んだ一筋の光を頼りに、少しずつ再生の時間を迎えるクライマックスが観賞後に優しくてさわやかな後味を残し、パートナーにありがとうを伝えたくなるこの映画。
喧嘩してしまったり、マンネリを感じていたり……いやいや、そうでなくたって。当たり前に過ごす日々にこそ観て欲しい、夫婦愛を描いた至極の日本映画です。
〈もう一つの見どころ〉
そして、もう一つ。いま、こんな時代だからこそ耳を傾けてみたいのが、妻・翔子が天井画を描くことになるお寺の住職の言葉です。
「描くことが技術なら、生きることも技術。生きてるだけで立派なのよ」
いろんなニュースが飛び交う最近ですが、生きてるだけで十分立派。疲れたら休んで、寝て起きてごはんを食べて。そう、ときには映画だって観ながら。作り手が映画に託したメッセージが、いまを生きる私たちにそっと寄り添い、優しく解きほぐしてくれます。
2:彼が彼女を愛おしそうに見たり触ったりする姿がたまらない「ビールストリートの恋人たち」
【参考】
※「ビールストリートの恋人たち」/Blu-ray&DVD発売中/発売:バップ/(c)2018『ビールストリートの恋人たち』
〈あらすじ〉
幼い頃から共に育ってきた19歳のティッシュと22歳のファニーは、 いつしか恋人同士となり幸せな毎日を送っていた。初めての夜を過ごし、ふたりで住む家を探す。しかしある日、ファニーが無実の罪で逮捕されてしまう。2人の愛を守るため、彼女とその家族はファニーを助けるために奔走するが、現実には想像もできないような困難が彼らの運命を翻弄していき……。
〈石渡的注目ポイント〉
米黒人文学を代表する作家ジェームズ・ボールドウィンによる小説「If Beale Street Could Talk(ビール・ストリートに口あらば)」を映画化した本作。監督は、『ムーンライト』(’17)でアカデミー賞作品賞ほか3部門に輝いたバリー・ジェンキンス。
1970年代の米ニューヨーク・ハーレムを舞台に、恋人同士のティッシュとファニーの愛と信念を描きます。オープニングから目を見張るのはその色鮮やかな色彩。恋人たちの感情を反映したように、あたたかく高コントラストで描かれる背景が、これまたハイセンスな衣装と完全にシンクロ。「あ、これはいい映画や」と悟るに十分なオープニングに期待値が一気に跳ね上がります。
中でも特に大好きで注目したいのが、ファニー(彼氏)が愛おしそ〜うにティッシュ(彼女)を見つめたり触れたりしてる姿。これが本当たまらなくすてきで。“男らしさ”の中に濃縮還元してしまっていた愛情が、ついに収まりきれなくなって、眼差しから指先からこぼれ落ちてくるような。
あんな眼差しを向けてくれる人のためならば、どんな困難だって立ち向かう強さが湧いてくるというものです。
そして本作は、恋人たちの愛と直面する困難を描きながら、同時に、アメリカ社会に根強く残る黒人の人種問題を伝えています。この原作者・ボールドウィンは、黒人であり同性愛者であったことから、著書でも人種と性をテーマに多くを描いた人でした。
差別と戦ってきたボールドウィンが、長年の活動の中で感じていたもの、それは「差別の理由はイノセンスにある」ということ。「自分たちは差別などしていない、むしろ被害者だ」という“純心”な考えが対立を生む原因となっている、と。
では、どうすれば歩み寄れるのか? ボールドウィンがたどり着いた答えは、「愛」でした。愛し合う気持ちとそれが引き裂かれる苦しみは、肌の色が何色であっても尊く、そして苦しいものである。その想いを疑似体験することが、理解への第一歩なのだ。と、この物語を書きました。
アメリカのお話ですが、日本にも無縁な話ではないような気がします。恋人たちの愛を見守りながら、これから私たちが作っていきたい世界について思いを馳せる。秋色のラブストーリーとして、そして映画の見方を広げる1本として、ぜひおすすめしたい作品です。
以上、「秋の夜長に観たい純愛映画」2作品をご紹介しました!
いかがだったでしょうか? とにかく色彩が美しい『ビール・ストリートの恋人たち』。美術を担当したのは、『ジョーカー』『パターソン』『ライフ・アクアティック』などを手がけたマーク・フリードバーグです。本作の世界観が好きだった方は、ぜひ、関連作品もチェックしてみてくださいね!(文/石渡麻美)
【参考・画像】
※石渡麻美(福岡映画部)
※VAP
この情報は公開日時点での情報です。
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